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新文芸座の熊井啓監督作品特集

池袋の新文芸座で熊井 啓監督作品を特集していたので、日程を調整して6作品を観賞してきた。

個人的には、熊井監督の社会派としての力量が発揮された「帝銀事件」(1964)・「日本列島」(1965)・「謀殺 下山事件」(1981)に鮮烈な印象をあたえられた(今回、他に鑑賞したのは、「地の群れ」(1970年)・「深い河」(1995年)・「愛する」(1997年))。

端的に言えば、これらの作品は、日本が実質的に合衆国の支配下にあることを告発する作品といえるが、こうした視点を商業映画が持ち得た時代が存在したことが新鮮であったし、また、本質的には何も状況が変わっていないにもかかわらず、こうした視点で社会を視ることができなくなってしまった現代の作家と聴衆の鈍感と怠慢を突きつけられる想いだった。

特に「日本列島」では、CIAが謀略活動の資金源として世界規模の麻薬取引に関与していることが描かれるが、こうしたことが調査報道で本格的に暴露されるようになるのは、それから数十年後のことである(例:Gary WebbThe Dark Alliance)。

熊井監督の何という先見の明であろうか……

近年では、日本語でも比較的にメインストリームに近いところで、たとえば矢部 宏治氏等の調査報道の関係者により、隠然と維持される合衆国による日本の支配体制に関する情報を発信されるようになっているが、これらの作品が制作された時代とくらべて、そうした体制は表面的には認識しにくいものに変わっているために、大衆もこうした問題にたいする関心を失いがちで、今日においては、たぶん熊井監督のようなアプローチは商業的には成功しないだろう。

こうした社会問題をとりあつかった作品を「たのしむ」ことができるためには、それなりの基礎知識が必要だろうし、それ以上に社会の支配構造というものがどのように機能するのかということについて、日常的にある程度目にしていないと、現実感を伴って作品を理解することができないだろう。

情報革命の恩恵を受けて、今日、情報はふんだんに流通するようになっているが、それを受容する側にある一般の人々は、それを現実と地続きのものとして理解するだけの経験も感覚も喪失してしまっているのである。

今日、「社会派」が直面する困難の一端はここにあるといえる。

いずれにしても、こうした問題にたいする無関心というのは、餌付けされているエリートと呼ばれる層ほど顕著で、熊井監督の作品の中でも彼等が自己の立場や責任に「殉じる」ことで、平気で同胞を裏切る様子が描かれる。

Harvard Graduate School of Educationの発達心理学者・Zachary Steinは、「今日の教育の最大の問題は、正に高等教育を受けた人々が――即ち、エリートとして社会の中で中心的な役割を担う人々が――社会的な課題や問題にたいして悉く誤った判断や対処をしているところにある」(即ち、現代社会の中でこれらの人々が真に機能することができるように、必要な教育を提供できていないということ)と喝破しているが、こうした作品を観ても、そうした問題がそのまま当てはまることを痛感させられる( http://www.zakstein.org/mediations-during-an-educational-crisis/ )。

 

尚、「深い河」であるが、約10数年振りに観たのだが(前回はサン・フランシスコのVogue Theaterで観た)、少し時間が経つと、自分が感動するところが 随分と違うことに気づかされる。

今回は秋吉 久美子の演技にとりわけ感動した。そして、また、この登場人物と奥田 瑛二が演じる大津という登場人物の間に芽生える不思議な「愛」の姿に非常に興味を抱かされた。

大津の生き方は、世界を裏側からみつめ、あらゆる価値観を逆転させたところ成立する自由さと真摯さにもとづいたものだといえるが、そこに密かな憧れを抱く主人公の姿が実に「素直」で、とても魅かれるのだ。

同時上映の「愛する」は、この監督の不器用さが悪いかたちで出た作品で、正直なところ観るのが辛いところがある。

主人公を演じる酒井 美紀の演技も稚拙で、画面を眺めていると気恥ずかしくなってくる。

また、あからさまにプロパガンダ的な要素もあり、これは忘れ去られる運命にある作品だと思う。

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