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音の公案:新日本フィルハーモニーの演奏会を聴いて

墨田トリフォニーの新日本フィルハーモニーの演奏会を聴いた。
はじめのシベリウスのVn協奏曲があまりにも酷く愕然としたのだが、二曲目のリンドベルイの新作からオーケストラの調子が上がり、最後のシベリウスの交響曲第7番では圧倒的な名演奏をくりひろげた。
今日は少し早めに会場に到着して着席したのだが、開演のベルが鳴っても、1階席がガラガラであることに驚いた。
指揮者のハンヌ・リントゥはこのところ続々とCDが発売されて注目を集めている存在なので、それなりに知名度も高いと思うのだが、これほどまでに空いているとは!!
どれほど演奏が優れていても、ここまで閑散としていると、会場にどこか寂しさが漂うものだ。
いうまでもなく、生演奏というのは、会場の空気(熱気)に刺激されてその質を高めるところがあるので、こうした状況の中では演奏の冷めたものとなる。
その意味では、今日は実に残念な演奏会だった。

今日の演奏会では、まず第1曲のシベリウスのVn協奏曲の演奏の訴求力があまりにも低いことに愕然とした。
古今東西のVn協奏曲の中でも最高傑作のひとつであるこの作品が、思わず欠伸が出るほどに退屈な音楽に聞こえるのだ。
この作品を生で聴いて、これほどまでにつまらない思いをしたのは初めてのことだ。
何よりもソリストのヴァレリー・ソコロフの演奏には、音そのものの美しさも無ければ、聴衆に訴えてくる力も欠けている。
その演奏を評するのに「凡庸」という形容詞しか思い浮かばないのだ。
ところどころギドン・クレーメルの演奏を想起させるような癖のある響きが聞こえてくるが、それらが曲の魅力を全く伝えるものではないために、興醒めさせる。
くわえて、リントゥの指揮するオーケストラも異常なまでに体温が低く、ミスも散見され、くわえてソリストとの呼吸が合わない。
ところどころ指揮者の指示で伴奏に工夫がくわえられるが(たとえば第3楽章の冒頭のティンパニ)、それらがどうにも不自然であるために、単なる夾雑物にしか聞こえてこない。
ここ数年のあいだこのオーケストラを聴いてきて、これほどまでに調子の悪い演奏に出遭ったのは初めてのことである。
この名曲をこれほどまでにつまらない演奏をするソリストにも呆れたし、また、この優れたオーケストラの魅力をこれほどまでに毀した指揮者にたいして怒りを抱いたほどである。

しかし、二曲目のリンドベルイの新作から徐々にオーケストラの調子がもどり、曲の途中からは、作品の音響的な面白さもあり、オーケストラは元気をとりもどした。
数多くのCDが発売されていることもあり、リンドベルイは比較的にひろくしられた作曲家であるが、その作品をこうして集中して聴くのは初めてのことだ。
この新作は、もしかしたら映画音楽の分野で活躍しているJerry GoldsmithやJohn WilliamsやThomas Newman等の作曲家の演奏会用の作品として紹介されたら、思わずだまされてしまうくらいに耳に馴染みやすいものだ。
作曲者は青空に向けてファンタジーを飛翔させていき、そこにひろがる極色彩の世界を華麗な音響で描いていく。
特に途中以降の美しさは秀逸である。
ファンが多いのも納得できるというものである。ただし、曲の結尾は物足りない。何とも勿体無いと思う。

休憩をはさんで、後半はシベリウスの交響曲第7番である(後半はこれだけ)。
20分そこそこの短い作品だが、あらためてこの作曲家の才能に圧倒された。
シベリウスの交響曲では、第4番と第7番が最も晦渋・難解だといわれ、また、個人的にもそれほど積極的に聴きたいと思う作品ではないのだが、こうして優れた演奏で聴いてみると、これらの作品が普通の意味の「理解」を必要とする作品ではないことに思いしらされる。
少し極端な言い方をすると、それはもはや音楽でさえないのかもしれない。
これらの作品を集中して聴いているときのこちらの精神状態は、たとえば公案を意識しながら瞑想をしているときの状態に似ているといえるかもしれない。
正に音の公案である。
その意味では、これらの作品は、表面的には音楽という姿を装っているが、その本質は音楽を超えたものなのかもしれない……。
いずれにしても、今日の新日本フィルハーモニーの演奏は圧倒的な名演奏だと思った。
ここで発揮されている力こそが、リントゥという指揮者の真の実力なのだと思いたい(あるいは、作品により非常に斑のある指揮者なのか……)。

明日はさらに優れた演奏になるはずなので、是非会場に足を運んでいただければと思う。

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