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ケン・ウィルバーとロバート・キーガンのインタビュー(2004)

少し古いものになるが、ケン・ウィルバー(Ken Wilber)とロバート・キーガン(Robert Kegan)のインタビュー(2004)がYouTube上で無料公開されたので、御紹介したい。
https://youtu.be/sRzU1bDXQIs
ポスト・モダニズムの強い影響下にある今日のアカデミアにおいて「発達論」を研究することが政治的にいかに困難なことであるかということについて多くの時間が割かれている。
対話中に“normative”という言葉が登場するが、これは「規範的」と訳されるようだが、その意味するところは、複数の人間の意識の状態を比較して、ある状態を他の状態よりも“better”なものであると価値判断する態度という意味で理解しておけばいいと思う。
発達論は、そうした価値判断をすることを、人間を理解するうえで不可避的な要素として受容する理論であるといえるだろう。
しかし、こうした発想は、必然的に、「ある状態に向けて人間は成長をしていくべきである」という規範を主張するものとなるので、それを「科学」の名のもとに社会に強要するのは横暴であるという批判を招くことにもなる。
いわゆるポスト・モダニズムといわれる思想は、そうした批判を先鋭的に展開するわけだが、そうした発想がひろく浸透した今日のアカデミアにおいては、発達論を研究することそのものがどうしても難しくなる。
端的に言えば、価値判断をすることそのものが暴力につながるという価値相対主義の支配下においては、発達論等のnormativeな発想をする学問は常に攻撃に曝されることになるのである。
ウィルバーとキーガンは、こうした同時代の思想空間の中でどのように研究活動を舵取りしていくべきかということについて語っている。
もちろん、ポスト・モダニズムそのものも深刻な盲点をそなえていることは徐々に認識されはじめている。
そこには、「価値判断をするnormativeな発想よりも、そうした発想を否定する発想の方が優れている」という価値判断が息づいているわけで、端的に言えば、他者にたいして禁止していることを自らがしているのである(“performative contradiction”)。
ウィルバーとキーガンは、こうした自己矛盾をある発達段階の特徴のひとつとして位置づけ、それそのものは比較的に高度の認知構造にもとづいた発想ではあるが、最終的には超克されていくと述べているが、ただ、少なくとも、今日のアカデミアにおいては、こうしたポスト・モダニズムの価値相対主義が主流を占めているために、それよりも高次の段階に立脚した発想は、正にそれが価値相対主義を信奉しないがゆえに、熾烈な批判に曝されるのである。
ただし、
ウィルバーとキーガンの発言に関して
少し注意を喚起しておくべきことがあるとすれば、それは、彼等が往々にしてあまりにも無警戒に高次の発達段階を美化してしまうことだろう。
端的に言えば、彼等は「よりたくさんの人々が高次の発達段階を獲得すれば、社会の問題が解決されるはずだ」と言うのである。
しかし、高次の発達段階を獲得すれば、人間が必ずしも良心的になるという保証は無いし、また、視点取得能力が高まることで、たとえその可能性が高まるとしても、それが今日の社会制度の中で活用されるという保証はどこにもない。
むしろ、高次の認知能力を駆使して、自己、あるいは、自己の所属組織の利益をさらに巧みに追及するようになるだけに終わるという可能性もあるのである。
実際、今日の社会の支配層の極度の腐敗を診れば、認知構造の集合規模の高度化が社会の福利の向上に繋がるという主張があまり信憑性の無いことは窺いしれるのではないだろうか……。
たとえば、高次の認知構造にもとづいて発想されているとされる『ティール組織』(Reinventing Organization by Frédéric Laloux)等の知識が、結局のところ、来るべき時代の中で勝ち組となるための道具として受容されているに過ぎないという今日の状況を鑑みれば、いわゆる「高次」の「能力」や「知識」を半ば不可避的に横領してしまう現代社会の構造にたいして鋭いメスを挿れることなしには、個人の発達などというものが実際にはそれほどの意味を持たないことに気づくことができるだろう。

 

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