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ただただひたすら残念な演奏会

#32 ルビー・アフタヌーン・コンサート・シリーズ
新日本フィルハーモニー@すみだトリフォニーホール
2020.07.17 FRI
https://www.njp.or.jp/concerts/8792

 

ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第1番ハ長調 op. 15*
シューベルト:交響曲第8番ハ長調 D944「グレイト」

指揮:太田 弦
ピアノ:田部 京子*

 

少し時間が空いたが、先日の太田 弦&新日本フィルハーモニーの演奏会@について感想をまとめておきたい。
当初の予定では、音楽監督の上岡 敏之が指揮をするということで非常にたのしみにしていたのだが、直前になり事務局より上岡氏の帰国が不可となり、代役として太田氏が指揮をすることを知らされた。
こうした特別な状況下では、生で音楽を聴けることそのものに対する感謝の気持ちが先に立ち、演奏そのものに関しては感想が後回しになるのだが、この日の演奏会に関しては、そうしたことを脇に置いて、少し感想を書き留めておきたいと思う。
というのは、太田氏の表現者としてのあまりの未熟さに、ただただ呆れてしまい、そうした「生で音楽を聴けることの純粋な喜び」を完全に吹き飛ばしてしまうほどに、恐ろしく退屈な想いをさせられたからである。
デビューしたての指揮者にこんなことを言うのは可哀想かもしれないが、しかし、正直なところ、「聴衆を前にして舞台に立つのは早すぎるのではないか……」と思わせられるほどに「+α」の無い演奏なのである。
当然、聴衆はこの日の曲をこれまでに何度も聴いているが、全編を通じてほとんど発見が無いのである。
それまでにCDで繰り返し聴いてきた作品でも、生で聴けば、そこには普通は何らかの発見があるものだが、そうした感覚を全くあたえてくれないのである。
また、目の前の演奏に客席で耳を澄ませていると、過去に耳にした演奏が次々と思い出されてくる。
「ここは、あの演奏ではもっともっと素晴らしかった……」
「ここは、あの演奏ではもっともっと感動的だった……」
「この作品とは、これほどまでにつまらない作品なのだろうか……」
もちろん、こちらも舞台上の演奏者に敬意を表して、何とかそこに素晴らしいものを見出そうとするのだが、何も無い。
個人的に特に気になったのは、太田氏の指揮振りを眺めていて、練達の奏者達に自己の解釈と表現をもって挑んでいこうとする意志や気迫が非常に希薄に感じられるということだ。
そこには、曲を知り尽くした奏者に対して果たして何を付加して伝えようとしているのかは全く見えないのである。
端的に言えば、あまりにも表現欲求が弱く、また、情報量が少なすぎるのである。
特に後半の「グレイト」を聴きながら、この異形の名曲がこれほど浅くつまらなく聞こえることに、怒りを覚えたほどだ。
頻繁に演奏会に足を運んでいれば、多かれ少なかれ落胆させられる演奏会というものはあるのだが、しかし、これほどまでに空虚なものというのは、そうそうあるものではない。
生の音そのものに内在する本質的な力が必ず心を揺さぶってくれるものだからである。
しかし、この日に関しては、気がつくと、心は他の演奏に向けて「逃避」をしてしまう。
「これが上岡であってくれれば……」と心の中で何度も念じてしまうほどだった。

前半のベートーヴェンに関しては、田部 京子のソロの美音が魅力的ではあったが、ただ、基本的には、繊細・優美な音色だけで勝負しようとするので、どうしても一本調子に陥ってしまう。
この曲に関しては、田部のアプローチでも、それなりに楽しませてくれるが、しかし、そこには、それだけでは表現することのできない雄々しい男性性が確実に息づいていると思う。
確かに、第1楽章のカデンツァには、そうした熾烈な想いが籠められてはいたが、そうした表現が非常に部分的で、全体としては、あまりにも「弱い」演奏に終わった。
田部 京子というと、吉松 隆の『プレイアデス舞曲』で示したあの優美な美音が想起されるのだが、まさにあの音だけでベートーヴェンを演奏するとこうなるということなのだろう。

NJPは、弦は本来の美しさをとりもどしているが、管はまだまだで、前半・後半共に荒が目立った。
また、聴衆の集中力も、先日のサントリーホールの聴衆のそれとくらべると、著しく落ちるものだった(楽章間の傍若無人とした拍手や演奏中のひんぱんな物音等、常にたるんだ空気が漂う)。
今日は、ただただひたすら残念な演奏会だった。

 

 

“I think the important thing is that the review has to be first person. You are the person writing your review. It’s your opinion. You are not stating some kind of objective truth. And I am amused sometimes when people will write to me to say that I should be a more objective critique because objectivity and criticisms have nothing to do with each other. It’s all subjective. It’s all first person opinion.”
- Roger Ebert